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「好きなんです。」
「・・・・へ?」
カカシの箸先から魚の小さな目玉が落ちた。秋の夜長ー、不思議な間でもって橙色の明かりがカカシとイルカを照らす。
カカシは魚を食うのが好きだった。
焼いたの煮たの刺身でも魚であればなんでも好んだ。
特に魚の目玉が好きだった。人から悪趣味と言われながらもあれば食べずにはいられない。
むしろその風貌と相まって不気味と思われながら食らうことに喜びすら感じていた。
この日もとっておきの美味い金目の煮付けの食べれる店屋に友人を連れ立ってやってきたのだ。
脂の乗った金目が大皿で出て来て、酒もそこそこに目を輝かせてカカシは腹身に箸をつけ、そうしてお目当ての目玉をくり抜いた。
程よく酒も回ってきてご機嫌で、さあ食べようと顔を近づけたとき連れてきた友人-イルカが告白したのだった。
落ちた目玉も構わず、カカシはその言葉の強烈さにイルカを凝視した。
そうしてその黒々とした瞳を見てこれは冗談ではないのだと理解し、さすがにもう一度問うほど野暮ではなかった。
他人から散々奇人変人と言われ続けてきても今のこの雰囲気を察せる程の良識はあるつもりだ。
ただイルカの表情と言葉の意味があまりに今のこの状況には唐突すぎて、カカシは言葉を飲み込む。
言葉を掛けるべきだろうが正直何と言っていいかわからない。それほどに動揺している。
心臓に毛が生えているとか、象程の神経だとか、やはり他人から散々な言われようの人間性であっても、このイルカからの発言はカカシにとってとんでもない破壊力があった。
「言うつもりは、なかったんすけど、」
「うん・・・・。」
真剣な表情のイルカではあったがカカシはその顔が徐々に赤くなっていくのをゆっくりと目で追う。
「だんだん収まりつかなくなっちゃって。」
「ええ。」
「自分の中で白黒つけたかったんです。俺あなたが、好きだ。」
□□□
「ていうことが昨日あって。」
午後の日が燦々と降り注ぐなか、いつもの上忍待機所にはカカシと同じく下忍を受け持つアスマと紅が次の任務までの間気怠るそうにお喋りをしていた。
下忍を受け持つ上忍師は意外にも待機が多い。
というのも下忍に成り立ての内は割り振られる任務の数が限られているため、本部の指示なくして動くことができないのであった。
これは上忍の目から見て過保護ともとれる扱いであった、規定がそうなっていれば仕方なしと、できた暇を喜びはするも三人は完全に持て余していた。
それまで紅の愚痴やアスマの美味い酒の話と話題はいつもと大して変わらなかったのだが、三人の中では口数の少ないカカシが昨夜の出来事を話しはじめたところであった。
大体他人の話は半分聞いて流すような二人だが(大概カカシも聞き流す。むしろ聞いてすらいない)相手がイルカとなっては話が違うようで、身を乗り出す勢いで二人はそれに耳を傾けている。そんな二人だったのでカカシは内心苦く笑った。
イルカというのはこの二人の様子から察するように階級を隔てて大変顔の利く男であった。
カカシは当初イルカに大して全く面識がなかったが、二人は彼が所属する本部の受付やアカデミーの教職に関するところでイルカとの付き合いがあるらしい。
まだこの二人に比べて付き合いの浅いカカシから見てもイルカは愛想が良く気は利いてよく働く男で、カカシの目から見てもイルカは良い男だった。
不思議と彼の傍には自然と人が寄ってくる。あの三代目すら彼を傍に置いておくのだから、人の心も惹き付けるが相当なやり手なのだろう。
忍としての能力は知らないがその魅力は変な忍術より遥かに恐ろしいとすら思う。
各言うカカシもちゃっかり友人としてイルカを傍に置いていたわけで。
振り返ってみれば出会ってから今まで里にいるときは何かにつけてイルカを誘っては飯屋に足を運んでいたのだった。
階級差をイルカの方はかなり気にしていたようだが、年が近いこともあってそれなりに打ち解けたとカカシは思っていた。
それが、こちらが思っている以上にイルカはカカシに対して好意を寄せてくれる結果になったらしい。
「夢?」
「はは、夢だったら良かったんだけどねー。」
「大体あんた、あけっぴろげにこんなとこで喋ってんじゃないわよ。」
「紅ゴシップ大好きじゃない。」
「人は選ぶわよ。」
ふいっと視線を逸らす紅の物言いに改めてイルカが好かれていることを感じた。
「・・・・趣味悪ぃなあ。」
ぼそりとカカシに聞こえるような声音でアスマが発言する。煙草の煙で器用に輪っかを作ってみせた。
こいつもか、とカカシはアスマの方を見やるも相手はこちらに視線も寄越さない。
「だってねぇ、まともに告白されちゃったの久しぶりだから。」
「ああ・・・あんたよく外面だけ良い女に言い寄られること多いもんねー。」
「う~んそうかもねぇ。何を聞いて来るんだか。」
「おめぇの噂は一人歩きしすぎなんだろ。」
ここにいる面々はカカシとの付き合いも長い。
十代からの知り合いともあって良くも悪くもカカシの身辺は二人は顔を顰めることに大体把握している。
噂というのは忍のカカシとしてのものではなく、大概が私生活面でのことだった。
年がら年中顔の半分を覆面をして過ごすカカシは忍里といえどやはり人目を引く。
更に上忍写輪眼のカカシともなればたとえほんの些細なことでも身辺を掻き立て、噂をつくるのが人の常で、カカシの噂は主に覆面の下の顔のことでいっぱいであった。女性が言い寄ってくるというわけで美男であろうというのが世の人々の見方らしい。
何故かそれに伴って下半身がだらしない、との評判も本人の耳によく入ってくる。
「誠実なのになぁ、」
「そうかしら?」
「ええー、うそー。」
紅の冷ややかな視線にカカシは両の頬を手で挟んでみせた。
「ボケてんのかトボけてんのか、さっぱりわかんないわ。ど突きたくなるからやめて。」
「で?イルカが昨日告白して、その後どうなったんだよ。」
「うん、断ったよ。」
カカシのあっさりとしたその物言いにアスマと紅の動きが一瞬止まる。
「・・・おめぇにしちゃあ真っ当なご判断だ。」
「そうねぇ、それが良いわよねー。イルカせんせの反応は?」
「けどちょっと拍子抜けする程、態度変わらなかったよ。だからそのまま何事もなかったように飲んで一時間もしないうちに帰った。」
普段のイルカというのはくるくる表情を変えて、喜怒哀楽がはっきりしたわかりやすい男であった。
だから、どう伝えてもなにかしらの反応があるだろうと、そう思っていた。
あの時イルカの気持ちが本気なのだとわかって、だからこそ曖昧にはできなかった。
そうしてカカシは一言、今のままがいい、とそうイルカの目を見ずに伝えたのだった。
ちらりとイルカを伺えば、その黒い瞳はいつものまま、静の動きでカカシを見つめ返すのだった。
このときになって初めてカカシはイルカの瞳の強さに気づいた。その黒さに。
カカシは驚く気持ちを抱えたままで、イルカも一言、わかりました、とそう伝えてその猪口に徳利を傾け時間は動き出したのだった。
それからイルカの他愛ない会話に耳を傾け、告白がまるでなかったことのように時が過ぎた。
「ふ~ん、ちょっと意外かもー。熱血先生だから涙の一つもあるかと思ったけど。」
「そうねー。でも俺泣かれたらもっと困ったなぁ。」
告白を受けて真っ先に出て来たのは何で俺?というのがカカシの正直な感想であった。
というのもアスマ紅の反応を見てもわかるように、自分で言うのも何だが、人間味ない男だからだ。
一般の忍に比べれば戦に赴く数が違うし、上忍師になる前は里に数年いないことはザラで、生涯恋人がいたことは一度しかない。
趣味といえば官能小説に、寝ることと、任務が無いときのカカシは怠惰だった。
顔だって十人並み、性欲もそこそこあるが、が、それが何故ああも噂になるのか、本当に不思議で仕方ない。
そう考えれば人間味溢れるイルカの方が余程魅力的だし、器量ある女性が傍にいてもおかしくないと思う。
「お、来たぞ。」
アスマの一言に我にかえるとカカシは窓の外の伝書鳩に目を向けた。
「あ~あ、短い休憩でごぜえました。」
「ちょうどいいだろ。」
「な~んで俺だけ呼ばれてんのかね。」
「がんばってー。」
「へいへい。」
ひらひらと手を振り背を向け、カカシは休憩所を後にした。
つづく